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7月29日開催、セミナー「M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A」(第一回)報告

「M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A」の第一回目として、株式会社Sharing Innovations 代表取締役社長であられる飯田 啓之様をお招きし、自身で立ち上げられた会社をM&Aで譲渡した体験談をお話しいただきました。譲渡側のM&Aの体験談を率直に語っていただけたと思いますが、特に、M&A後、自身の会社のスタッフが「うちの会社」=「M&A(買収)を行った会社」と一人称が指す会社が変わったことがPMIのあるべき姿を指し示しているようで、リアルなM&Aの一面を強く感じた部分でありました。

Concerto Partners(以下、Concerto):みなさん、こんにちは。本日から毎月開催するウェブセミナー『M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A』の第一回目となります。このセミナーでは「M&Aで自らの会社を譲渡した経営者」をゲストとしてお迎えし、なかなか出てこない譲渡する側の生の声をお届けしたいと考えております。

第一回となる本日は、株式会社Sharing Innovations代表取締役社長の飯田啓之さんをお迎えしました。飯田さん、よろしくお願いいたします。

飯田様(以下、飯田(敬称略)):よろしくお願いいたします。

Concerto:まずは簡単に自己紹介をいただいてもよろしいでしょうか?

飯田:はい、株式会社Sharing Innovationsの飯田と申します。企業のDXを支援する会社です。もともとはムロドーというシステム開発会社を2007年に創業し、その会社を2020年にSharing Innovationsへ譲渡しました。そのタイミングで代表になるというお話をいただき、現在に至っております。

Concerto:代表就任後、2021年3月にはIPOもご経験されていますね。さらにM&Aで譲り受け側として2社をグループにジョイン頂いています。譲渡・IPO・譲り受けの3つを経験されている方は珍しいのでいろいろお聞きしたいと思っています。

まず、そもそもM&Aで譲渡をお考えになったきっかけはあるのでしょうか?

飯田:そうですね、うーん、なんだったんでしょう(笑)思い出しながら話すと、当時、ベンチャーキャピタルからの資金調達の話があったんですね。すでに一度調達しており、2度目のタイミングです。それを検討している中で、「M&Aで売却しないか?」というオファーも年に数回、常にあったんです。

Concerto:それはM&Aの仲介会社から?

飯田:そうですね。ITエンジニアは常に不足しているので、ある程度の人数を抱えていた私の会社のサイズ感はちょうど良かったんだと思います

Concerto:なるほど。ベンチャーキャピタルからの資金調達ではなく、M&Aでの譲渡を選択された理由はどういったところなんでしょうか?

飯田:ひとことで言うと「環境を変えなければならない」と思ったから、でしょうか。仮にベンチャーキャピタルから資金調達しても経営体制は、その前とほぼ同じですよね。今までの体制で経営していて当時の状況なのだから、この先も同じことを繰り返してはならない。それだったらまったく違う環境に身をおいて、事業も自分も社員も違う角度からつくりなおすべきだ、と考えたからです。

Concerto:経営そのものを変えたい、と。

飯田:そうですね。10年以上経営していたので、ある意味で「馴れ」みたいなものが生じていると感じていたんです。調子が良いときも苦しいときもあったし、今後もあるだろうけど、それなりに乗り越えていける。今から振り返ると、そんな状況を打破したかったのかもしれません。

Concerto:譲渡先はどのように見つけられたのですか?

飯田:そもそも友人でもあり、ビジネスの取引先でもありました。別にもう一社からも声がかかっていたのですが、相手の経営者への信頼感や強みが相互補完できることなどを考えて決めました。

Concerto:M&Aでは経営者同士の信頼感というのは大切ですよね?

飯田:とても大切だと思います。

Concerto:迷いはなかったですか?

飯田:なかったです。あとは相手の経営者がどう考えるのか、それにすべて従おう、と。一般的にM&Aで譲渡する場合、自分の会社よりも経営体力が強い会社が相手になるケースが多いじゃないですか。

Concerto:そうですね。

飯田:要するに「自分の会社よりも良い経営をしている」ということだと考えたんです。ですので、「今までの自分が良いと思ってやってきた結果が現在なのだから、明日(M&Aのあと)からは、(自分たちより良い経営をしてきている)相手の会社のやり方で事業をつくりなおすんだ」というような感覚を持っていました。

Concerto:なるほど。創業メンバーや社員の方にはどのタイミングでお伝えされたんですか?

飯田:そこは悩みました。創業メンバーがひとりいるのですが、彼には、相手の経営者と基本的な方向性を合意したあとに伝えました。

Concerto:先に相談したのではなく?

飯田:そうですね。なかなか言い出せず、というか。ただもう長年一緒にやってきているので、伝えたときには「それが良い」と即答でした。お互いそう思っていたんだな、と。印象的だったのは「その会社(Sharing Innovations)なら良い」と言っていたことです。普段から取引があったので仕事の進め方や企業文化を理解していたのでしょう。

Concerto:社員の方にはどのようにお伝えされたんですか?

飯田:創業メンバーで合意したあとに、私がひとりひとりと話しました。

Concerto:どのような反応でしたか?

飯田:これがですね、今でも複雑な気持ちといいますか(笑)、けっこうあっさり受け入れてくれました。さらにいうと、喜んでいるような節もありました。経営者としては複雑な心境なのですが、社員の立場にたってみると、より強い会社にジョインするわけです。経営基盤も安定するだろうし、新しい人々との出会いもあるだろうし、よりチャレンジングな仕事もあるかもしれない。

冷静になってみると「そりゃそうだよな」と自分でも思っていました。ちょっと寂しかったですけど。いや、ちょっとじゃないかな、だいぶかも(笑)

Concerto:なるほど(笑)やっぱり社員の方のことは考えますか?

飯田:考えますね。経済的条件、つまり譲渡の金額はもちろん考えますが、その次にというか、それ以外で考えていたことは「今の社員が新しい環境に入ってどう活躍できるのか」ということでした。ほぼそれしか考えていなかったように思います。

Concerto:実際にどうでした?

飯田:わりとスムーズに溶け込んでくれたと思っています。そもそも強みが違って相互補完できる関係だったので、私の前の会社のスタッフは今の会社に無いものを持っていて、今の会社も歓迎してくれていたのがありがたかったです。

さっきの話と似ているのですが、今の会社にジョインしてから数ヶ月後、嬉しいというかショックというか、どっちの感情もマックスになったことがありまして。

Concerto:どんなことでしょう?

飯田:前の会社の社員と飲みに行ったんです。そうしたら、いつの間にか「うちの会社」という言葉が、前に経営していたムロドーではなくてSharing Innovationsを指すようになっていたんですよね。

これを聞いたときには、うれしい反面、寂しいというかなんというか、とても複雑な心境で(笑)

Concerto:やっぱりご自身で創業された会社というのは、社員の方も含めていろんな思い入れがありますもんね。

飯田:そうですね、自分でも気づいていないくらい思い入れがあったんだな、と。これは私以外の創業経営者も、みんな同じじゃないかなと思うんです。

Concerto:そしてSharing Innovationsの代表となられてからは、2社、M&Aで譲り受けてらっしゃいます。こちらはどのような経緯だったのでしょうか?

飯田:事業を成長させる上で、オーガニックな成長とM&Aの活用というのは常に両面で考えており、その一環ですね。私自身が譲渡「した」経験があるので、ジョインいただいた2社の経営者の気持ちは痛いほどわかります。

Concerto:M&A後にはPMI(M&A後の統合プロセス)が重要ですが、なにか工夫されたことはありますか?

飯田:PMIについては私が直接やるというよりも、管轄の取締役中心に進めました。私の前の会社も含めて、過去にも何社かM&Aしているので比較的ノウハウを持っていると思います。私個人は、新しくジョインいただいた会社の経営者と、ちょっとした会話も含めて、できるだけ心地良く・はやく溶け込んでいただけるように日頃から接していたくらいでしょうか。

Concerto:なにか印象的なエピソードがあれば教えて下さい。

飯田:そうですね、うーん、なんだろう。あ、先ほどの「うちの会社」という話を伝えたことがありました。「飯田さん、そのときどんな気持ちだったんですか?」って聞かれて、「なんというか、嬉しいのと寂しいのと、両方同時にマックスです」と答えて爆笑されたことがありました。

でも普通にプロジェクトが始まりだすと、やっぱりイキイキしてきます。お互いの強みを発揮して、今までと違ったレベルで頑張っていこう!となるので。

Concerto:飯田さんの場合はM&A仲介会社を経由せずに、ということですが、もし仮にM&A仲介会社を利用するとすればどんなことを期待されますか?

飯田:客観的な指摘ですね。M&Aで譲渡するというのは、初めての場合が多いと思うんです。だからなんにもわからない!本で勉強したり、経験したことのある経営者仲間に聞いたりはするんですが、それでもやっぱりわからないことだらけ。そのあたりを、他社の事例も含めて客観的に教えて欲しいですね。

Concerto:事業承継も含めて、M&Aという言葉は以前よりは認知が高まったとはいえ、まだまだイメージが湧かないという経営者が多いように感じています。

飯田:そう思います。友達の経営者と話していても、IPOの話は出てきますがM&Aの話はほとんど出てきません。M&Aは事業運営していく上でのひとつの選択肢として、もっと広く認知されるべきだと思っています。

Concerto:なるほど。最後にご視聴の皆様にメッセージがあればお願いいたします。

飯田:私個人が考えている、譲渡する側としてのM&Aの捉え方なのですが、「自分がつくってきた事業・組織・社員、さらには自分自身の『再生』である」という思いが強いです。今まで自分でやってきた限界を突破するひとつの方法論。新しい環境にジョインして、今まで育てた事業や組織、社員がより良く・より強くなるための選択肢のひとつという意味です。もちろん、自分自身も。

私自身、Sharing Innovationsにジョインしてからずっと「こういうケースでは、このようにやるのか」という学びの連続です。気づいたことを経営ノートとして記録しているのですが、過去を振り返って「なんであの時この選択をしたんだろうか」と反省することも多い。

事業継承のようなパターンで経営から引退される方もいらっしゃるでしょうが、お客様との関係や事業は続くし、社員も働き続けるわけです。経営者ご本人の人生も続きます。前の会社も新しい会社も含めてすべての関係者がより良くなるための、そんな知恵のひとつがM&Aであると捉えています。

Concerto:M&Aに携わる我々としても身が引き締まるお話です。本日はありがとうございました。

 

今後のセミナー開催予定はこちらから。

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