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8月26日セミナー「M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A」(第二回)報告

「M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A」第二回目、DNX Ventures プリンシパルの新井豪一郎様をお招きし開催しました。IPOを目指していくという「自分で将来をつくれる」状況の中、次のビジネスをしたいという気持ちからM&AでのExitを決断したという貴重な体験談をお話いただきました。

Concerto Partners(以下、Concerto):みなさん、こんにちは。先月から毎月開催するウェブセミナー『M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A』の第2回目となります。このセミナーでは「M&Aで自らの会社を譲渡した経営者」をゲストとしてお迎えし、なかなか出てこない譲渡する側の生の声をお届けしたいと考えております。

本日は、DNX Ventures プリンシパルの新井豪一郎さんをお迎えしました。新井さん、よろしくお願いいたします。

新井様(以下、新井(敬称略)):よろしくお願いいたします。

Concerto:早速ですが、簡単な自己紹介をいただけますか?

新井:はい、皆さま本日は貴重な機会をいただきましてありがとうございます。私は現在はベンチャーキャピタリストとして活動しているのですが、直前は2010年に起業して、昨年2021年に良い形でコクヨ株式会社にM&Aされました。M&A後も代表取締役としてしばらくはマネジメントして欲しいということだったので、今年の4月まで代表としてその会社の経営にあたっておりました。

Concerto:私は新井さんとは新卒でNTTに入社した際の同期という仲です。その後はどんなキャリアを歩まれたんでしょうか?

新井:NTT入社後に「起業したい」という思いが湧いたものの、ビジネスのことがわからなかったので、きちんと勉強しようとビジネススクールに入りました。

ただビジネススクールを卒業する時になっても自分が何をしたいのかはわからなかったので、外資系の経営コンサルティング会社に入って3年ほど修行しました。その中で「教育事業をやりたい」ということが見えてきて、その分野で起業しようと決めました。

いろいろと動いている中で、星野リゾートと提携するというご縁をいただきました。しかし、その時に考えていたビジネスプランはうまくいかないという結論に至り、星野さんにご提案した事業提携ができないという連絡をしたところ、「星野リゾートとPEファンドで合弁企業を作るのでそこで経営者として修行しないか」とお誘いいただき、4年ほどお世話になりました。その後に株式会社CLEARNOTEという会社を友人と立ち上げました。

Concerto:星野リゾート時代はスキー場の経営でしたよね。CLEANOTEについてご紹介いただけますか?

新井:Clearnoteは中・高・大学生を対象とした学習アプリです。勉強ノートのYoutube/Instagramという言い方をしているのですが、自分がまとめたノートを公開して他の人がそれを参考にして勉強のわからないところを解決するというサービスです。

日本でスタートして、タイ、台湾、インドネシアへ展開しました。対象となる学生の半分くらいがアクティブユーザーになるという感じでした。

Concerto:すごいですね。2018年にはロンドンで開催されたEdTech系のコンテンストで優勝されています。

新井:サービスはよく使われたのですが、正直マネタイズには長い間苦労しました。最終的には広告モデルとSaaSのようなストック型のビジネスを組み合わせて売上を伸ばしていった感じです。

Concerto:CLEANOTE時代にはベンチャーキャピタルからの出資も受けていたとのことですが、IPOもしくはさらなる資金調達という手もあった中でM&Aを選択された理由はなんだったんでしょうか?

新井:そうですね、「この事業を更に大きくするために大企業の傘下で強い事業シナジーを生んで成長させて行きたい」と考えたことです。ベンチャーキャピタルから資金調達するというのは基本的にはIPOを目指すということです。決断したのは2019年の秋くらいでした。いろいろ考えながら、だいぶ悩んでいました。

その頃にかなり迷ったのですが、共同創業者に「このビジネスはスタンドアローンでやるよりも、大企業の傘下に入り、親会社との事業シナジーを活かして大きく育てていきたい」と話したんです。

Concerto:かなりの告白ですね。

新井:そうなんです。共同創業者にはすっごい怒られるかなと思っていたら、「俺もそう思っていた」とサクッと言われて(笑)

Concerto:私も新井さんの共同創業者の方と面識があるのですが、なんとなく想像できます(笑)

Concert:共同創業者の方に話したあとはどうされたんですか?

新井:株主との合意が必要ですが、ある程度目処をつけてからのほうが良いと考えました。そこで、株主と話す前にM&Aのアドバイザーを2社回って良さそうな方を選び、時間軸や手順について確認してから伝えました。

Concerto:ベンチャーキャピタルの反応はいかがでしたか?

新井:「もうちょっと頑張りましょうよ」という人も一部いらっしゃったのですが、創業社長がM&Aしたいと言っている以上、もう切り替えて、より良いExitを目指すということで賛同してくれました。

Concerto:M&Aのアドバイザリーを2社回られたということですが、決め手はなんだったんでしょうか?

新井:提案の具体性、相性ですかね。自分と同じ目線でスピード感や工夫できるチームを求めていました。

Concerto:実際にM&Aまでどれくらいの時間だったんですか?

新井:半年くらいです。

Concerto:その間はかなり密にやり取りされたのでしょうか?

新井:そうですね、特に最後の2カ月はもう毎日のように打合せでした。

Concerto:交渉のプロセスでトップとの面談があると思うのですがどんな話をされるんですか?

新井:一緒になったら既存事業がどんな風に伸びるか、新規事業としてはどんなことが考えられるか、とかですね。

あとはお互いの人柄を観る感じですね。相手も私たちを面談していますが、私たちも相手を面談しているわけなので。

Concerto:私たちが通常担当するM&Aは中小起業が多く、トップ同士の信頼というのが大きな鍵になります。トップ同士が握れば一気に進むといいますか。

一方で大企業へのM&Aだと、社長以外に経営企画室長みたいなポジションの方も出てこられると思うのですが、そのあたりはいかがでしたか?

新井:まず先方の社長がその気になったら、その後のデューデリ等の実務段階では経営企画室長みたいな方とのやり取りが増えます。

Concerto:大企業のデューデリは大変そうですね。

新井:かなり大変でした。質問の量が多くて、M&Aアドバイザリーからも他の事例と比べてもかなり多いといわれたくらいです。

Concerto:たとえば業績の数字なんかもこまめに提出しないといけないと思うんですが、事業運営への影響はありましたか?

新井:現場の担当者にいろいろ資料を要求するものですから、時間は割いてもらっていたと思います。

Concerto:社長、なんで急にこんな細かくなったんだ?と(笑)

新井:そうですね(笑)

Concerto:現場のスタッフの方、つまり全社員への告知はいつされたんですか?

新井:いろいろ考えたのですが、現場の混乱を避けるために「すべてが決まってから伝える」と決めてやっていました。

Concerto:デューデリって、「ここの会社とやる」と決めて1社相手にやったんですか?それとも同時並行で数社とやったんですか?

新井:私たちの場合は、「この期間は御社とだけやります」というエクスクルーシブな期間を設けました。その間は1社だけとやります、と。

Concerto:M&Aに関してすべてをオープンにできる状態になったときに、社員の方に伝えるときに苦労もしくは工夫されたことはありますか?

新井:ストックオプションを付与していたので、そこが一点。次に、組織文化や業務プロセス、意思決定プロセスの変化について。スタートアップの自由な雰囲気が壊れちゃうんじゃないか、という話です。

Concerto:全員集めて話したんですか?

新井:2段階にしました。役員にまず話して、その次に全社員に伝えました。

Concerto:新井さんから説明したんですか?

新井:もちろん私から説明するのですが、「他の役員たちも安心している」という点を強調したというか留意しました。

Concerto:ストックオプションについてはどうご説明されたんですか?

新井:現金で買い取るという選択肢もありますが、現金で買い取ると株主とコンフリクトを起こすわけです。そこで、今後の給与をどう上げていくかという話をしていくことにしました。

他社の事例では現金で買い取るところもあるようですが、それだとその時点で退職する人も出てくるので、私たちはそれは選択しませんでした。

Concerto:実際にM&Aされてから、たとえば会社の名前だったりオフィスだったりは変わったんですか?

新井:私たちが最も大切にしていたのは、「組織文化や業務プロセス、意思決定プロセスを変えない」ということでした。そこはM&Aの段階で合意した上です。オフィスについては用意いただいた場所に移転しました。とってもお洒落なオフィスになりました。

Concerto:なるほど。意思決定プロセスについては変化はない、ということですが、実際はどうだったんですか?社内は今まで通り、新井さんの決裁で進めるということだと思うんですけど、新井さんから親会社に判断を仰ぐ場面などはあったんでしょうか?

新井:それは変わりましたね。たとえば投資金額などに応じて、親会社側の判断を私から仰ぐ場面は出てきましたね。

Concerto:一連のM&Aを振り返って、いかがでしたか?

新井:当時の監査役からいただいたアドバイスでありがたかったのが「M&Aの交渉の過程をゲームとして楽しむんだよ」ということです。ややもすれば深刻に考えてしまいがちですし、それなりにプレッシャーもかかるわけですが、「これも交渉というゲームのひとつ、良い提案も悪い提案もくるけれども、それをお互いにとって良い結果に導く途中なんだ」と思ってやっていました。

Concerto:現在はベンチャーキャピタリストとしてスタートアップに投資をされているわけですよね。当然、IPOを目指している経営者ばかりだと思いますが、一方でM&AというExitも存在するわけです。スタートアップの経営者に対してM&Aについて話されることはありますか?

新井:私が担当している投資先に具体的に提案した経験は今のところはまだ無いですが、聞かれたら話すという感じですかね。もちろんIPOを目指しているわけでそれが成就することが最も良いわけですが、プランBとしてのM&Aというのはいつでもサポートできると思っています。

Concerto:私たちはM&Aのサポートをしているわけですが、創業者が会社を売るというのは相当な決断だと毎回感じます。事業承継のような形で後継者がいないというパターンはある程度、経営者の方も覚悟しているというか、もう決めている方が多いですが、新井さんのように「(IPO含めて)自分で将来をつくれる」状態でM&Aを決断される経営者もいらっしゃいます。

なにが最も大きな決断ポイントだったのでしょうか?

新井:CLEARNOTEの事業を成長させる上で、単独でやり続けるよりも大企業の中でシナジーを生みながら成長させていくことがユーザーさんとお客様にとって良いと、考えたことだと思います。

Conceto:最後に、今はベンチャーキャピタリストですが、ずっとやられるんですか?

新井:そのつもりです。私は今が人生の3段階目だと思っていまして、サラリーマンをやりました、スタートアップのファウンダーをやりました、そして今はスタートアップをサポートする投資家をやっています、ということです。投資家の仕事も非常にやりがいがあり、起業家の気持ちもとてもよくわかるので全力でサポートしています。

Concero:最後に視聴者の皆さまにメッセージがあればお願いします。

新井:ちょっとでもM&Aが頭によぎったら、「とりあえず進めてみる」ということが大切かと思っています。情報収集するだけでも自社の事業や自分自身を客観視できますし、頭に浮かぶというのは、どこかでそういう選択肢を考えていると思うんですよね。

だからとりあえず進めてみる。嫌だと思えばストップすればいいだけですから。そんなスタンスがとても大切だと思っています。情報を得ることで納得感のある決断ができますし。

Concerto:本日は貴重なお話、ありがとうございました。

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